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千葉地方裁判所八日市場支部 昭和30年(ワ)127号 判決

主文

被告は原告に対し金百萬円及びこれに対する昭和三十年十二月十八日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(省略)

理由

成立に争のない甲第一及び三号証と証人小川俊吉、石毛アイ子、安原英子、山本静枝、綿貫晴江の各証言と原告本人尋問の結果によれば原告は千葉県印旛郡八街町ほ二四〇番地で手広く呉服商を営んでいたが昭和二十九年六月から胸部疾患のため千葉大学習志野分院、次で八日市場市九十九里ホームにて治療中であり妻安原八重が入院中しばしば見舞に来て原告留守中の営業もうまく行つていたとの事であつたが同年十月七日頃から急に妻八重が来院せずしばしば電話等で原告が自宅へ連絡をしてみても要領を得なかつたので数日後急に帰宅してみたところ意外にも店の商品は勿論家財道具の主なものも殆どなく長男正一が一人で留守をしている有様であり、長女、二女等に事情を聞いてみてはじめて妻うめが被告と情を通じ商品、家財等を処分し又借金も作つたり更に「梅の屋」という飲食店を開いて被告と妻八重が同棲している事実が原告に判明したことが認められる。又原告の急な帰宅を知つて妻八重が被告と共に家を出たことも十分に推定される事実である。

更に原告が昭和十一年頃独立して八街町に呉服商を開き努力の結果相当な店にまでなつていたこと従つて同町において原告の社会的地位も高まつていた事実が認められ、被告が原告の妻八重と情を通じてから妻八重が家出し子女三人はその母を失い原告経営の八街町における呉服商もその信用を失い廃業の止むなきに至つた事実従つて原告の資産信用、地位は一朝にして一切これを失う事態に追いこまれ子女三人はそれぞれ他に生活を求め原告は飯岡町の救助をうけて現に病気療養中である事実が認められる。

被告訴訟代理人は被告は何等原告の呉服店経営に介入し借金を作つたり商品を処分した事実はなく要するに金銭的に何等原告に対して損害を与えた事実はないと主張するに止るのみでその他の主張の事実についても十分これを認めるに足る立証がない以上その抗争の事実はこれを認めることが出来ない。

以上の事実から考えてみると被告が原告の妻八重と情を通じその家庭を破壊に導いた事実はこれを認めなければならない。

従つて原告のこうむつた精神上肉体上の苦痛は少くとも被告の不法な行為に原因するものと認めるのが相当であるからその苦痛を慰する為め原告が被告に対し金百萬円の支払を求める本訴請求はこれを認めるのが妥当であり本件訴状送達の翌日である昭和三十年十二月十八日より完済まで年五分の割合による遅延損害金をも合せ支払うべきものと認められる。

よつて民事訴訟法第八十九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 秋本尚道)

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